From Europe Vol.10 北イタリアのサーファーたち

From Europe Vol.10 北イタリアのサーファーたち

 

2019年の冬にイタリアを訪れた。そのとき中部地方トスカーナの海沿いを中心に回ったが、そこでローカル以外にイタリア北部から来たというサーファーらに出会うことができた。彼らは週末を利用し、300㎞以上の距離をキャンピンカーで移動してきていた。イタリアは高速道路の制限速度が高めに設定されているが、キャンピングカーということもあり片道4時間は毎回かかるという。

これまでヨーロッパで出会ってきたサーファーはたいていが海の側に住んでいるか、もしくは都市生活者、その2パターンに分けることができた。それに対し彼ら北から来たサーファーたちが住むのは、地方都市からも少し距離があり、どちらかといえば山の麓だそうだ。そう話すメンバーの中にはサーフボードのシェイパーもいた。

彼らはなぜサーファーでありながら、海まで距離のある場所に住んでいるのか? 波のある時期が限られているイタリアにおいて、海の側に住むのは自営業とはいえ、社会人としてリスクが大きいのか? もしくは彼らの住む場所が魅力的なのか…? 彼らのライフスタイルを知ろうと、再度イタリアへ飛ぶことにした。ガルダ湖近くに構えられたシェイパーのアトリエを目的地に。

ミラノ・マルペンサ空港でレンタカーを借り走ること2時間半。時おり高速道路から見えるアルプス山脈は白い雪が山頂にまだ残っていた。時期は5月中旬。南北に長いイタリアは地域によって景色が違うといわれるのがよくわかる。北国の景色。

そうこうしながらも無事に目的地のアトリエへたどり着くことができると、そこで迎えてくれたのはシェイパーのMichele(ミケル、以下M)、キャンピングカーの持ち主Tommaso(トンマーゾ、以下T)、そこに初めて会うLuca(ルカ、以下L)が加わった。この3名はみな40歳前後で Tommasoは妻子持ち。それぞれ車で20分圏内の距離に住み、3名に共通するのは個人事業主で、サーフィンをするという事だ。

シェイパーのMichele

キャンピングカーの持ち主Tommaso

初めて会うLuca(写真左)

ピザ(各々が1枚ずつ頼み、基本シェアはしない)でもてなされる中、早速いろいろ質問を投げかけてみた。

―サーフィンに関する仕事をしながらも、なぜ海から離れた場所に住んでいるのですか? 自営業なので海のそばに住むことも十分可能では?

T「アパレルブランドの輸入代理店を営んでいますが、私が住むヴェローナはミラノとヴェネチアの中間地点にあり、2つの市場にアクセスしやすく便利です。サーフィンも海も愛していますが、おそらく私が一番愛しているのは〝完璧な波″をサーチするという行為でしょう。例えばあなたは海のそばに住んでいるとする。スエルを簡単に確認でき、サーフィンするかしないか決めるのも簡単。しかしあなたが海から離れた場所に住んでいるとする。すると必然的に気象や天気図を学ぶことになる。やがてそれは人生における一つの能力や強みとなります。波予想をし、サーフィンに行くと決めたら仕事のスケジュールを事前調整。そしてキャンピンカーの手入れをする。そして予定通り海に到着。しかしそこに波があるかは約束されていない。毎回それはサプライズ。時々いい、時々は期待外れ。でも毎回必ずサプライズが起きる。それもクソみたいにとんでもなく素晴らしいものが!」

M「そうだね、僕はこれまでも都市に住むのを選択した事はないな。僕が生まれたのはCastelnuovo del Garda という小さな町。そこには家族が暮らしていて、第一に僕は彼らの近くに住み続けていたい。またここはガルダ湖に近く、ガルダ湖はカイトサーフィンのスポットとしても有名。サーフボードだけでなく、カイトサーフィンのボードもシェイプもできるという利点をもたらしてくれる」

L「自分は他の2人に比べサーフィン関連の仕事ではないが、サーフィンや海は常に心の中にある。自分はアーティスト。数年前から円をモチーフに絵を描く事が多いが、それはうず潮からインスピレーションを得たもの。もちろんアーティストだから住む場所はどこだっていい。その気になれば海のそばも可能だ。でもアーティストとして各地で開催される展覧会へ参加することを重要視している。ここ1年の間でもNY、マイアミ、カリブ海のバルバドス諸島に、近いところではギリシャのミコノス島にも展覧会で行った。日本にも行った事がある。ここからはヴェローナ空港まで20分ほど。地方空港ながら外国へのアクセスがいい。もちろん外国へのアクセス度だけを考えたら、ミラノの便利さに勝るものはない。けど自分は自然が好き。静かなところにいたい。ビッグシティは特別な時で、日常生活はストレスなく送れる場所を選んだ」

ルカは数年前からマントヴァ近くの緑地でアグリツーリズム「agriturismo beatilla」を家族と一緒に営んでいる。自分たちでリノベーションした各客室にはインテリアの一部として自身のアート作品を置いている。施設内にあるアトリエではアートのワークショップも開催。アグリツーリズムにアートを掛け合わせた、独自のスタイルを打ち出している。イタリア国内でもアグリツーリズムにアートを組み合わせているのは「agriturismo beatilla」だけだ。

―仕事に家庭にと、日々慌ただしい生活が想像されます。その中でどうサーフィンの時間を組み込んでいますか?

T「サーフィンは海の中にいる時間だけでなく移動時間も含まれる。平日は難しいけど、週末とバカンスのときは波のある場所にいるよう努めている。時々平日でも時間の余裕ができると、一日休みにして行くこともある。マレだけどね。なぜならイタリアは常に波があるわけではない。自分の時間と波のタイミングを合わせるのは簡単な事ではない。ただそのおかげで色々な場所に行く事もできる。ティレニア海だったりアドリア海側だったり。ホームポイントはない。ノマドサーファーだ。現地に行き、その近くに住む友達とサーフィンしているとそこがホームポイントに思える。最近行ったのはヴェネチアのPUNTA SABBIONI。好きなポイントはトスカーナ州リボルノのLILLATRO。でも一番ホームだと思うのはその下のPARCO GIOCHIだ」

L「サーフィンを始めたのは20代後半、オーストラリアで。そこからイタリアに戻ってきた最初の年が一番ハマっていた。スエルが入ってくればその都度海に行っていたよ。今は水温の温かい場所の方がどうしても…。年齢のせいかな(笑)。イタリアでサーフィンをする回数は減っているけど、サーフトリップには行く。友達と2週間休みを都合してどこか温かい海へ。好きなのはカリブ海だ」

M「サーフィンはプライオリティのうちの一つ。だから行ける時はサーフィンに行く。サーフィンに行っていない時は板を削っている時。僕はヴェネチアのPUNTA SABBIONIがホームスポットかな」

―アドリア海側、それもヴェネチアでもサーフィンできるんですね。

M「そうなんだよ。ヴェネチアだけでなくイタリア全体においてサーフシーズンは冬。ときどき春や秋も波が立つけど基本は冬。Punta sabbioniはヴェネチアから一番近いポイント。ビーチブレイクであまりパワフルではなくロングボード向き。でもたまにショートボードも可能にさせる波がブレイクするときもある。雰囲気はとても個性的! サーフィンとヴェネチアの景色がとても近く、同じ景色の中におさまる。ヴェネチアは日本の方も知っているように、世界で最も美しい街の一つ。だからもし旅行でヴェネチアに来たとして、同時にPunta sabbioniでサーフィンできたら、それは特別な経験になるよ」

―シーズンオフやシーズン中でも波がないときは何をして楽しんでいますか?

M「波のないとき…僕はとてもラッキーだと思う。だって山が近くにあるから。冬ならスノーボード、雪の季節が終わったら自転車を楽しむ。近場の自然を色々探索するのは面白いよ。たまにトンマーゾと釣りにも出たり。そんな日の1日はイタリアのローカルフードを食べることで締めくくるんだ。ワインももちろん一緒にね」

T「私はDIYマンなんだよ。家のインテリアや、会社のショールーム、サーフィンに行く為のヴァン、それらの何かを作るのが楽しい。もしくは近所のガルダ湖で家族と一緒に過ごす。海は近くないけど、ここも美しい場所だ」

―仲間内のサーファーの間で流行っているもの、共通しているものはありますか?

L「自分の仲間はみんなクール。それぞれが得意分野を持ち、ここにいるシェイパーのミケルをはじめ、ある者は映像作家、ある者はフォトグラファーなどそれぞれ独自のスタイルを持っている。そして自分は常に違う者でありたい。なぜなら自分は自分そのものでいることが好きだから」

M「流行っているかはわからないけど、ここ最近のオーダーで一番多いのがフィッシュボード。波質も影響しているけど、イタリア人はサーフィンもスポーツというより、乗ること自体を楽しんだり、カッコつけて乗るのが好き」

T「よく話すのがサーフボードの形や色、サーフスタイルにヴァンライフ、ファッションはほんの少し。美味しいご飯と美味しいワインに、欠かせないのは美しい女性! 我々はイタリア人だ;)」

イタリアは道路交通網が整備されているので距離の割に移動しやすく、少し移動するだけで違う景色が現れる。地域ごとの特徴が大きく、ルカのいう「イタリアが国となったのは最近のこと。もともとは別々だった」という意味が実際に行くとよくわかる。移動も楽しめるのかもしれない。

地方に行ったら行ったでご飯とワインは郷土色があり、美味しい。どの土地も歴史があり、現在まで残された古い建造物は状態が維持されている。そこに豊かな自然が加わるなど、イタリアは色々な文化、魅力に溢れている。サーフィンの波質や頻度は他のサーフィンで知られる国に比べて物足りないだろうが、それ以外の楽しみや遊びの選択肢の多さは抜きん出ている。ただ、ともすればやる事は多くなりそうだが、忙殺された様子はなく、力みがない。やはりイタリア人はどんな時間も楽しむ、もしくは楽しんでいるように見せるのが上手いと思われる。そこに何かコツはあるのだろうか? 最後に聞いてみた。

L「楽しんでいるように見える? それはよかった(笑)。実はイタリアでも北の人間はよく働く。とても真面目で勤労をよしとし、ビジネスを大切にする人たちだ。けれど同時に人生で何が好きか、大事なのかも追求する。それはサーフィンと共通しているんじゃないかな。北は他のイタリア国内の地方に比べて仕事がある。自分の夢やビジネスにトライし、その発展を後押しする土壌もある。働く事、お金を稼ぐ事は人生に自由を与える。自由な人生とは〝楽をする事″ではない。しかし自分の時間を自分でマネージメントできるのは、スエルが入ったときその場所にいることを可能にさせる」

T「いやぁ、本音をいえばファッションビジネスはなかなかしんどい(笑)。それでも日々努力していくしかない。時間は限られている。波があったらそこに動けるような状態でいたい。幸いなことに妻もサーファーだ。サーフィンを楽しむ時間を共有できるのは何よりも幸せ。海に連れていくことが妻サービスにもなるしね。もちろん毎日色々あるが、最終的にはとてもラッキーな男だと、いつも思っている」

M「仕事と人生を楽しむ、そのバランスが大事だと思う。一般的なイタリア人は週末のために生きている。平日からエスケープするように週末は遊び、「時間が足りない」とたまに言いあう。僕もバランスが取れないことに不満を覚えたりもする。僕の人生の楽しみとは、ヴァンに乗り込み、自分のサーフボードをはじめ必要最低限の物だけを積み海に向かうこと。ただし、サーフボードは〝いいサーフボード″を掴むことがコツだ(ウィンク)」

彼らは家族や仕事を大切にしている。海から離れた場所からサーフィンへ行くには移動時間もお金もかかるが、逆に場所にとらわれ過ぎない精神的自由を持っている。そしてサーフィンできる環境に身を置けることは恵まれたことだと知り、波があれば例え小さくても、パワーが足りなくてもそれ自体に喜び、楽しむ。地に足をつけたノマドサーファーたちだ。

(答えてくれた人)

名前:Michele

職業:シェイパー

サーフィン歴:10年。初めてサーフィンしたのはバカンスで行ったサルデーニャ島。それをきっかけにスノーボーダーからサーファーになった

愛用ボード:フィッシュ

海上がりに食べたいもの:早くて食べるのが簡単でかつ美味しいもの…ピアーダ!

Instagram: passionhandcraft

名前:Tommaso

職業:アパレル代理店業

サーフィン歴:20年。18歳の夏、ヴェネチアに近いLIGNANOというビーチでライフガードをしていた。そのときにライフガード仲間がサーフボードを貸してくれたのが事の始まり

愛用ボード:Dewey weber 10′

海上がりに食べたいもの:パスタ!

Instagram:studioinformale

名前:Luca

職業:アーティスト

サーフィン歴:10年。オーストラリアのヌーサビーチだった。いまだに最初にテイクオフできた波の事は覚えている。とてもいいエネルギーをもらった

愛用ボード:PASSION HANDCRAFT MINIMALIBU 7.0

海上がりに食べたいもの:行った先のローカルフードを食べたいけど、ピザが大好きなんだよね

Instagram:bornoffi

 

Written by Michiko Nagashima
Tue, 28 April, 2020