From Europe Vol.9 Surf italiano

From Europe Vol.9 Surf italiano

“地中海は冬しか波が立たないが、イタリアもサーフィンできる”。

 サーフィンのイメージがあまりないイタリア。そのインパクトは大きかったが、どこか半信半疑なところもあった。

 ただ2010年代に入ると国内の波で撮影されたサーフフィルムが何本かリリースされ、2017年には初のトップサーフアスリートが誕生した。ここ数年では特にイタリアサーフに関する情報が増えている。

 イタリア人サーファーも増加しているのだろう。今やフランスの海沿いのパーキングでイタリアナンバーの車を見るのは珍しくない。フランスだけでなくポルトガルのペニシュを昨年の春に訪ねたときも、サーフスクールを主宰するローカルが「2017年くらいから急にイタリア人が増えた」と言っていた。そういえばスペインのガリシア地方、波はいいがアクセスしづらい場所にもイタリア人はいた。

 実は以前からいたのか、それとも増加中なのか、どちらにしろ大西洋側でイタリア人サーファーに出会う回数は増えている。それに対し、こちら大西洋側から地中海のイタリアへサーフトリップに行った人には出会ったことがない(サルディーニャ島のぞく)。世間の関心は高まっていくだろうに、実態は相変わらず掴めないままだった。

 イタリアのサーフシーン。それはどんな様子で、どんな人たちがそこにはいるのか。何か独自のムーブメントは起こっているのか。それを探りに現地へ飛ぶことにした。例えその時に波がなくとも、せめて現地ローカルの話だけでも直接聞ければと。

ビギナーズラック? そこに波はあった

 取材の申し入れを『Damp 』のYari氏は快く引き受けてくれた。 『Damp』とは約3年前からスタートした年2回発行のフリーマガジンだ。イタリア国内のサーフショップで手に入る他、国外ではアメリカのサンクレメンテで2カ所、東海岸では「Saturdays NYC」にも置かれている。

 そのYari氏が待ち合わせ場所に指定してきたのがトスカーナ州のリヴォルノ。トスカーナ州はイタリア国内で中部になり、州内の西部に位置するリヴォルノはティレニア海に面する県。そのなかでも南部のビーチが待ち合わせ場所だった。理由は「波があるから」ということだったが…。

 そしてそれは本当だった。波があったのだ! サイズこそ大きくはないが、波数は多く、入水しているサーファーの数もそこそこにいる。これまでの情報や、「波を当てるのは難しい」と覚悟していただけに、拍子抜けしながらも、しかし感動であった。 

Ciao!海の中でもパーキングでも常に聞こえる挨拶

 波のある場所へ見事導いてくれたYari氏。本人はその日、朝7時から入ると昼の12時までノンストップでサーフィン。朝のセッションをたっぷり堪能した後、また海に戻る仲間を横目にインタビューに答えてくれた。まずはイタリアサーフを神秘足らしめている、地中海の波、その当て方から聞いてみた。

「リヴォルノの北部にあるMarina di Pisaの下を境に、そこから南は北西スエルに反応する。今いるここもそうだけど、このエリアは1年のうち200日は波がある。ただし夏はない。シーズンは10~3月と冬の間。その条件から計算すると、ここは冬に波があるんだ。イタリアの波が“ある”けど“ない”と、言われるのは北部のリグリア海エリア(ジェノバを中心とした左右に広がる海岸線沿い)だろう。そこは南西スエルに反応し、いい波が立つのは1年のうち10日ぐらい。ロングボードならサーフ可能な日数はもう少し増えるが、確かに波を当てるのは難しい。ただそこはミラノから一番アクセスしやすいエリアでもある」

Yari氏は続ける。

「スエルが入ったとき、リヴォルノの中でもここがいいのはサーファーならみんな知っている事。だから今日は北から南まで、イタリア中から集まっている。それでもまだ少ない方。多い日は駐車場に車が置けないくらいのときもある」。

 イタリアの波はタイドによる影響がないという。だからYari氏のように5時間も入り続けることも可能になる。また波の入り方も遠くからうねりが入って割れるというよりは、フラットな状態からいきなり海面が盛り上がり、割れて波となる(大海と水の量が違うせいで、そう見えるのかもしれない)。ローカルたちは場所を熟知しているので、その盛り上がる少し手前で波待ちをする。パワーは大西洋側に比べ、おだやか。波待ち時の体力消耗度は低く、まるでプールに浸かっているよう。サーファー同士の位置もかなり近く、声を張ることなく会話を楽しんでいた。

昔の時代にカムバックするならヨーロッパは最適

「イタリアサーフの特徴…そうだね、数日前にカリフォルニアから戻ってきたばかりで記憶に新しいから例えてしまうと、カリフォルニアはイタリアからすると個人主義に感じられる。それぞれが海に行き、サーフィンし、帰る。イタリアもそれぞれで海にやって来るが、一緒に長い時間を過ごす。海から上がった後もその場にい続け、知り合いと会話を楽しむ。その間に違う知り合いに会い、紹介し合い、最終的に全員と知り合う。海にいる時間を丸ごと楽しむのがイタリア。ここでのサーフィンは、波に乗る以外にもその前後の時間までをも意味する。仕事前に2時間だけ入る、というスタイルではない。海に入り、話し、上がって、話し、ご飯を食べて、また話す。実際にコミュニケーションを取れる、海は一つのリアルソーシャルの大切な場所」

−波があるのは冬、海は一つの社会。未経験の人が気軽に始めるのを考えると、環境的にハードルが高いと思われますが、イタリアのサーファー人口はやはり増えていますか?

「サーファーは増えているし、シーンも大きくなっている。それは10年くらい前から始まり、ここ5年くらいでさらに勢いを増した。その要因はインターネットの影響が大きい。波情報サイトにWebカメラの設置。事前に波情報をより正確にチェックできるシステムはサーフィンを継続させやすくさせる。また、新しく始める人はインスタグラムなどSNSで、ファッションの面から捉えて入ってくることが多い。この流れはまだ続き、拡大していくとみている」

 Yari氏の『Damp』も雑誌だが、Web閲覧も可能になっている。「SNSは1秒の世界、雑誌は1日1枚の写真を眺めることができる媒体」としながらも今の時代に適応。ただベースはこのような考えを持っている。

「カリフォルニア(毎冬サーフィンのレベルアップの為行くようにしている)で感じたのは、昔のスタイルに戻りたがっている人がいるということ。今は家でもネットを通じて旅行気分が味わえる。けれどそれは簡単過ぎないかい? 知らない場所、情報があまり出ていない場所へ実際に行って、何かを発見するのが旅の醍醐味だと思う。それにはヨーロッパ、イタリアは適している。大切な情報はネットに流れないし、流さない。実はイタリアはシークレットポイントの宝庫。イタリアは波がないのではなく、情報は簡単に出さない。自分は昔のスタイルの方が好き。だから数の多さ、スピードよりもクオリティを大切にしていきたい」

 

今回のイタリア取材において、波があるかわからなかったので板もウエットも現地で借りればいい(大西洋側なら可能)と持って行かなかったが、実際貸してくれるサーフショップはなかった。板は借りることができても冬用ウエットのレンタルは無し。だが、その状況を見抜いたYari氏をはじめ、まわりのサーファーがウエットと板を貸すと、それも複数人が申し出てくれた。
 初対面の人間、レベルも知らない人にウエット、それに板まで貸せますか? 

 “強い資本主義がヨーロッパ社会を壊していく”というのはイタリアで聞いただけの話ではないが、フェイスtoフェイスの“信用”が強い。過去の経歴やキャリア、自身の経済効果等、つまり数字のアピールはあまり意味をなさないし、興味も引かれない。それよりも今そこの波を楽しもうとする気があるのか、フィーリングが重要視される。また“誰”の知り合いか。プリミティブとまでは言い過ぎだが、本質が試される。インスタントと反対の世界。情報は簡単に出てこないが、彼らが情報を持っていないわけではない。だからこそ、現地にいけば収穫がある。イタリアに行ったら暇はない。スケジュールの余白を多めに作っていくのがいいだろう。そしてイタリアから帰ると、その体験を誰かれ構わず発信しようとは思わなくなる。知らない大多数の誰かより、大事な人と共有したい。Yari氏のいうように、“昔の時代”が今のイタリアにはまだ充分残っている。特にサーフィンの現場では。そしてそれは大きな魅力で、イタリアサーフを神秘足らしめているのである。

(答えてくれた人)

名前 :Yari

ホームブレイク:リヴォルノ

サーフィン歴:20年。初めてサーフィンしたのは父親に連れられていった8歳のとき。そこですぐサーフィンの虜になった。そこから自分で真剣にやるようになったのが18歳のときから。

愛用ボード:様々なタイプのツインボード、動きたいときはクワッドフィンを使用

海上がりに食べたいもの:午後にもう1ラウンド控えているときは、軽い身体でいたいから、ナッツとフルーツを口にする程度。そうでなければもちろん、パスタ!

Written by Michiko Nagashima
Wed, 03 April, 2019